【この記事のポイント】
・鎌倉のブランドを纏う贅沢な釜揚げしらす、つまみ食いを「毒見」と言い換える、料理人のささやかな心理。
・醤油の一垂らしと大根おろしが引き立てる、しらすの圧倒的な鮮度と旨味。
先日書いた釜揚げひじきに続いて、今日は釜揚げしらすのご紹介です。
パッケージには「釜揚げ"鎌倉"しらす」と。
この "鎌倉"という言葉があるだけで、高級感が出るのは鎌倉のネームバリューのなせる技ですね。
幕府の台所と、鎌倉ブランドの引力
湘南しらすといえば、江の島や茅ヶ崎が有名ですよね。
鎌倉のしらすも独自の地位を築いており、歴史を遡れば鎌倉時代から相模湾は幕府の台所を支える一級の漁場だったんだとか。
なかでも鎌倉・坂ノ下や材木座の漁師が揚げるしらすは、限られた漁獲量と丁寧な加工による希少性からブランド価値が高いとされていたようです。
大都市に隣接しながら、港から数分で加工場に直行して釜茹でされるその鮮度。
歴史の厚みと圧倒的な距離の近さが、「鎌倉」という二文字に特別な響きを与えているんでしょう。
つまみ食いを「毒見」と言い換える屁理屈
蓋を開けると、おぉ、こりゃ新鮮なしらすだな…
大量のしらすを眼の前にして、ここで私は何を考えたか。
(こんだけたくさんあるなら、ちょっとぐらい食べてもバレないだろう。)
続けて。
(これはつまみ食いという背徳行為ではない。素材の品質が均一であるかを確認するために不可欠な「サンプリング調査」。いわば、食卓の安全を担保するための毒見である。)
そう。
つまみ食いを肯定するため、涙ぐましいロジックの構築です。
これは私だけに限らず、台所に立つすべての料理人が無意識に行っている「自己防衛」ではないでしょうか。
さて、これで自分を納得させて、プリッとしたしらすをひとつまみ…
うん、こりゃ〜美味いぞ。
純白の小さな身は、指でつまむと驚くほど弾力があり、口の中でプチリと弾けます。
口に運べば、茹でたてのような瑞々しい旨味の奥から、柔らかな海の香りと絶妙な塩気が広がる。
これはただの魚の子供ではない、完全に完成された「日本酒の最高の相棒」だ。
…
う〜ん、もっと食べたいなぁ。
(下味でどれだけ塩味がついているか、少量でわからなかったなぁ。料理にした時に塩っぱくし過ぎるとよくないので、もうちょっと食べてみなくっちゃ。)
悪魔の囁きは続いて、そろそろ量が減りすぎ、バレるんじゃないかというラインでようやく自制心が働きます。
純白と琥珀色が織りなす、完璧な塩梅
さてと、大根おろしの上に少し多めにしらすをのせてと。
事前のサンプリング(=つまみ食い)で塩加減をばっちり確認済みなので、このままでもよし、醤油をちょいと垂らすでもよしという絶妙な塩梅(?)に仕上がっています。
シャキシャキとした大根おろしの上に、こんもりと盛られた純白のしらす。
そこに醤油をたらりと落とすと、琥珀色の筋がおろしとしらすの隙間に染み込んでいきます。
おろしのみぞれ感、しらすのプリッとした肉質が口の中で出会った瞬間の心地よい調和。
大根のさっぱりとした辛みがしらすの濃厚な甘みを引き立て、噛むほどに豊かな風味が広がる。
冷えた辛口の日本酒を喉に流し込めば、一日のがんばりがすべて報われるような快楽に浸れるんですよね。
いやぁ、ひじきに続いてこれも絶品だったなぁ。
妻の妹夫妻には改めて大感謝、ご馳走さまでした。
【おまけのワンポイント】
実はしらす(稚魚)を食べる文化は日本や東アジアだけでなく、海外にも広く存在しているんだとか。
英語圏では「ホワイトベイト(Whitebait)」と呼ばれ、イギリスでは小麦粉をまぶして丸ごと揚げたフリットがパブの定番つまみ。イタリアでは「ビアンケッティ(Bianchetti)」と呼ばれ、オリーブオイルとレモンを絞ってシンプルにオーブンで焼いたり、パスタの具材にするんだそうです。もしかしたらイギリスやイタリアの厨房にも、「毒見」にいそしむ料理人がいるのかも。



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