【この記事のポイント】
・上野駅の常磐線ホームの冷凍加熱調理の無人セルフ駅そばを初訪問。
・マシンの準備中待ちから調理完了までトータル5分。昭和の立ち食いそばの「秒速オペレーション」にタイパで完敗。
・麺のボリュームとクオリティに対する「600円」という価格の境界線。人手不足時代に必然となる自動化が、人々の『財布の紐』を納得させるために超えるべき、高い壁の存在を実感。
とある土曜日、今日と明日は息子と旅行へ。
待ち合わせは上野駅。朝食は新幹線の車内で弁当かと思っていたところで…
あ、そうだ。
上野駅のホームに、駅そばの無人店舗があるのを思い出したんです。
話題半分にいずれ行ってみたいと思っていたお店。無人なら朝7:00前の早い時間でも開いているはず。
よし、まずはここで朝食の駅そばをいただくことにしようかな。
常磐線のホームを歩いていくと、目指す店舗が見えてきました。
一瞬足を止めたのは、そこに掲げられた『セルフ駅そば』という看板。
というのは、「セルフスタンド」といえば、自分で給油ノズルを握る場所ですよね。
その文脈を忠実に適用するならば、セルフ駅そばとは『客が自ら調理台に立ち、麺を茹でて汁を注ぐ駅そば』ということになります。
もしそうなら、自分の労働(人件費)を現場に提供するわけですから、価格は劇的に抑えられているはず。
もしくは「茹で加減をコンマ秒単位で我が儘に調整できる」といった、極めて高度な『自己責任の快楽』が用意されているように読めます。
「もし本当にそうなら、それはそれでネタとして面白すぎる」と、半ばニヤリとしながら暖簾をくぐった次第です。
店内に入ると、先客がタッチパネルを操作していました。
どうやら自分で調理しているわけではなく、全自動マシンの様子に一安心(と少々のガッカリ)。
先のお客さんが器を持って立ち去り、いよいよ私の番になりましたけど…
…あれ?画面をタッチしても無反応だな。
よく見ると、画面には「準備中」の表示が出ており、しばらくお待ちくださいとのこと。
この「待ち時間」が思いのほか長いんですよね。
時間にしておそらく2分ほど。
オーダーの入力すら受け付けてもらえず、ただ無言で起動画面を見つめて立ち尽くすしかないんです。
この長いインターバルは標準仕様なのか、それともたまたま私のタイミングが悪かったのか。
幸い後ろに他のお客さんはいませんでしたけど、もし通勤ラッシュ時で後ろに列ができていたら、「なにモタモタしてんだ!」という冷ややかな視線の圧力に耐えかねていたでしょうね。
ようやく「準備中」が解け、メニュー画面へ。ラインナップは極めてシンプルに3種類だけでした。
・定番たぬきつねそば 600円
・柚子胡椒香る豚肉そば 780円
・濃厚とんこつ魚介ラーメン 980円
朝の胃袋には「たぬきつねそば」で十分、でも常にこれしか選択肢がないのは少々寂しいか。
…あ、なるほど。
このマシン、内部で冷凍してあるそばを急速加熱して提供する仕組み。
なのでメニューの種類が制限されるのは、冷凍庫のキャパシティや加熱の都合上「やむなし」ということなのか。
注文を確定してから、器が出てくるまでは『90秒』。
自販機の前に立ってからの総時間を冷静に振り返ってみると、『90秒でサクッと食べられる』というイメージとは随分かけ離れていることに気づきます。
・マシンの準備待ち:約2分
・画面操作と決済:約2分弱(慣れない画面操作や決済の通信時間も含める)
・調理のカウントダウン:90秒
自販機の前に立ってからそばを手にするまでに、トータル5分ちょっとを費やしている計算。
これが昭和から続く「有人の立ち食いそば店」だったらどうか。
食券を買うのに数秒、店員さんに手渡してから「はいお待ち!」と丼が差し出されるまで、1分もかからないのが常識ですよね。
無人ロボットという「未来のテクノロジー」が、実は昭和の立ち食いそばが誇る「秒速の職人技」に対して、時間的な効率の面で倍近い大敗を喫している。
便利さを追求したはずの自動化が、結果として顧客の手間と待ち時間を増やしているという、なんとも皮肉なあべこべ現象です。
さて、それじゃ味の方はどうだろうとパッケージをオープンすると…
う〜ん、そばのボリュームがかなり控えめ。
これは冷凍状態から90秒で均一に熱を通すための制約(質量制限)なんでしょうけどね。
スカスカの麺の量を目にした瞬間、「これが600円というのは、正直かなり厳しいな」というのが率直な感想でした。
まぁそれはともかく、ひとまず頂いてみましょう。
まずは汁を一口。
ん?丼の縁が分厚く、汁を飲みにくいけど…
味はそれほど悪くはないなと。
酸味と旨味がほどよく調和しており、天かすと油揚げから溶け出したコクと甘みが朝の身体にじんわりと染み渡ります。
じゃ麺はどうか。
う〜ん、ふかふかとした茹で麺ですね。
駅そばだからこれでも大きな問題はないものの、ボリュームの少なさもあって、少々残念な気持ちに。
唯一、少し甘めに煮含められた油揚げは良い味を出していたものの、全体的なクオリティにはまだまだ改善の余地ありというのが正直なところでした。
いろいろ文句ばかり書いてきましたけど、もしこれが480円で提供されていたなら、私は喜んで「面白い試みだ!」と絶賛、スナック感覚で楽しんでいたはずです。
これが「600円」というワンコインの境界線を超えた瞬間、私の中の消費者としての目線は、「新しいおもちゃで遊ぶような寛容さ」から、「食事としての純粋な価値」を厳しく品定めする、冷徹な現実主義へと切り替わったんですよね。
人手不足が深刻化するこれからの時代、自動化と無人化の流れは避けて通れない必然。
「より速く、より安く、より美味く」。
かつて日本の鉄道インフラを支えてきた駅そばの持つ「圧倒的なスピード感と合理性」を、この無人ロボットが本当の意味でクリアし、課題解決を図っていくことを期待して。
今日のところは、ご馳走さまでした。
【おまけのワンポイント】
かつて昭和のロードサイドやドライブインに君臨していた「うどん・そば自動販売機」は、わずか25秒で丼を高速回転させて湯切りをするという、ローテクながら超高速な物理ギミックで我々を魅了してくれました。
最新の冷凍技術を駆使した令和の無人ロボットが、秒速オペレーションという「昭和の職人自販機」の背中に追いつく日を、密かに楽しみにしています。
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