・歴史ある「田町絹市場」の面影を残す一角で、偶然出会った『となりの笑多』。中トロのお通しに始まり、群馬の地酒「浅間山」のアテとしておばんざいやおでん、そして山椒ハイボールが引き立てる上州鶏の炭火焼きに舌鼓。
ホテルで一息ついた後、夕食を求めて夜の高崎の街に。
特にあてもなく歩いていると、古風な情緒を纏った飲食店が数軒集まるエリアに遭遇します。
そこは「田町絹市場」。
かつて絹の取引で日本の近代化を支えた高崎の歴史が、今もなお細い路地の空気感として息づいている場所です。
理屈と暖簾:息子と選ぶ「となりの笑多」
「店、決めていいよ」と息子に委ねると、店構えを交互に見比べながら、あれやこれやと自問自答。
どうやら彼には、自分の中で「なぜこの店なのか」という明確な理由を構築してから行動に移したいという思考回路があるようです。
納得感を大切にするこだわり、なんでしょうかね。
ん? よく考えてみると私にも同じような性癖があるぞ。
彼が選んだのは、絹市場の入口右手に店を構える『となりの笑多』。
「お父さんがお酒を飲むのに良さそうだから」と殊勝なことを言っていましたけど、暖簾には「おでん」の文字が踊っています。
なるほど、おでん好きの彼を突き動かした真の動機はこれなんだろな。
驚愕のお通しと、群馬の至宝「浅間山」
先客は一組のみ。
オーダーから間を置かずに運ばれてきたビールで、唐突な旅の始まりという今日に乾杯!
喉を鳴らして流し込む一口目は、いつ呑んでも堪らないですねぇ。
「お通しです。」と言われて差し出された皿、これを見てビックリ。
なんと、美しいサシの入った「マグロの中トロ」じゃないですか。
たくあんとネギと共に海苔に巻いて頂くと、脂の甘みと食感のコントラストが口内で爆発。
こんなに贅沢なお通しは、私の長い食べ歩き歴の中でもないんじゃないかな。
続いて「おばんざい六寸」。
ほうれん草のゴマ酢、大根のハリハリ漬け、黒豆チーズサンド、梅水晶、マグロ煮付けにポテトサラダです。
この本格的な6品が1,680円とは、コストパフォーマンスの極み。
味は本格的で、どれを食べても「う〜ん、うまい」と二人揃って唸ってました。
こりゃ日本酒を合わせずにはいられんぞと、選んだのは地元群馬の銘酒「浅間山」。
米の旨味がしっかりと感じられつつも、後味は驚くほど軽やかでキレが良く、食中酒として非常に洗練された味わい。
個性豊かなおばんざい一品一品を、優しく、かつ鮮やかに引き立ててくれる最高の相棒でした。
出汁の深淵:おでんと焼き鳥のシナジー
そして、息子の本命「おでん」の登場。
子供の頃からおでんの大根が一番の好物だった息子、この大根を一気に頬張って「こりゃ素晴らしい」と感嘆の声を漏らします。
玉子の色艶、厚揚げや白滝に芯まで染み込んだ煮汁の旨味。
変わり種のトマトは、加熱されることで増した甘みと酸味が出汁の旨味と見事に融合、和食の懐の深さを感じさせる仕上がりでした。
私の数ある好物の一つ、馬刺しです。
群馬は日本三大馬刺し県ではないものの、名前に「馬」を冠する県なのでこだわりがあることは間違いなし。
新鮮な身の弾力、噛むほどに溢れる野性味溢れる旨味に、盃が止まらなくなります。
息子が追加で頼んだ「だし巻きおでん」。
おでん出汁をたっぷり含んだ玉子は、口の中でジュワッと旨味が溢れ出す。
おでんの出汁って、無限の可能性があるんだなと。
山椒の刺激とシャモロック:高崎の実力
ここで趣向を変えて、「山椒ハイボール」をオーダーです。
ベースはAKAYANEの山椒スピリッツ。
芋焼酎由来のどっしりとしたコクに、山椒の痺れるような清涼感が加わった極めて個性的なお酒です。
一口飲めば、鼻から抜ける爽やかな香りが、味覚をリセットしてくれます。
合わせる焼き鳥は、ハツ・にんにくの芽、そして上州地鶏の砂肝。
ハツの瑞々しさと、砂肝の力強い弾力。
これを山椒ハイボールが綺麗に洗い流し、次の一口を誘います。
能書きにあった「やきとりとの相性も抜群!! やきとりの脂を中和させます」というのは本当でした。
締めには、お店が推す「青森シャモロックもも焼き」。
シャモロックというのは、青森県が20年の歳月をかけて開発した究極の地鶏。
その肉質は緻密で、噛むほどに力強い旨味が溢れ出し、炭火の香ばしさと相まって、まさにメインディッシュに相応しい貫禄でした。
最初から最後まで、父子揃って「うまい、うまい」の連発。
当初の期待を軽々と超えてきた高崎の美食の実力、恐るべしですね。
心から大満足の夕食、ご馳走さまでした。