【この記事のポイント】
・東京駅の混雑をスマートに避ける品川駅での駅弁調達。お気に入りの「とりめし」を狙ったはずが、実家のテーブルで起きた「消去法の逆転劇」。
・1600円の高級駅弁「まぐろいくら弁当」がもたらした、ねっとり漬けマグロとプチプチいくらの圧倒的な幸福感。
5月初旬の爽やかな土曜日、この日は実家へ顔を出すことに。
手土産代わりと言っては何ですけど、実家での昼食を「お互い好きなものを選べる楽しさ」がある駅弁にするのが最近のマイブーム。
もちろん、向かうのは東京駅ではなく品川駅です。
この駅の『駅弁屋 品川宿』は、東京駅の「駅弁屋 祭」のような狂気的な混雑とは無縁。
通路を行き交う人は多くとも、お弁当のショーケースの前では落ち着いて品定めができるんですよね。
今回、自分は密かに前回と同じく「とりめし」(1,080円)を食べるつもり。
素朴ながらもしっかり出汁の染みた茶飯と照り焼きの相性は抜群で、自分にとっての鉄板メニューなんです。
そんな好物を含め、両親の分と合わせて3つの弁当を買い込み、いそいそと実家のテーブルへ並べました。
消去法がもたらしたまさかの大逆転。残り物に宿る「1600円の福」
いざ、実家のテーブルでのお弁当の割り振りが始まります。
2ヶ月ほど前は、幕の内好きの母が真っ先に「とりめし」を引き寄せるという予想外の展開。
私が「銀だら幕の内」を開けた瞬間に「やっぱりこっちがいいわ」と強奪していくという、いつもの理不尽な展開に大笑い。
その結果、私が「とりめし」を食べることになったわけですけど、今回はその逆だったんです。
なんと、両親が先に選んだ結果、最後に残ったのが今回一番の高級品である「まぐろいくら弁当」(1,600円)。
「残り物には福がある」とはよく言ったもので、まさか前回の逆パターンで、棚からぼた餅式に贅沢な海の幸が私に回ってくるとは。
思わずニヤリとしながら、この主役の蓋を開けることにしました。
酢飯に咲き誇る海の紅白。視覚を圧倒する豪華な二重奏
蓋を開けた瞬間、目の前に広がったのは鮮烈な紅です。
黒い外枠に映える鮮やかな赤い内皿。
その上に、艶やかな赤身を湛えたマグロのぶつ切りがこれでもかと敷き詰められ、下半分には光沢のあるオレンジ色のいくらがびっしりと輝いています。
左上の錦糸卵の黄色と、笹のバランとわさびの緑が全体の色彩をさらに引き締める。
駅弁のプラスチック容器という制約の中で、これだけの色彩コントラストを設計した開発者には、お弁当界のグッドデザイン賞ものですね。
見た目の美しさもさることながら、このお弁当の隠れた主役は、中央に鎮座する淡い緑色の特製ペースト。
実はこれ、ただのわさびではなく、茎わさびがしっかりと混ざった「わさび風味」のペーストなんですよね。
パッケージにわざわざ「わさび風味」と吹き出しがあった理由が、このディテールを見て深く理解できました。
よし、それでは頂きましょう。
まずは主役の漬けまぐろから。
箸で一切れ持ち上げると、タレを適度にはらんだ赤身が美しく照り映えます。
口に運べば、ねっとりとした極上の舌触りとともに、まろやかな醤油の風味が口いっぱいに広がる。
噛みしめるたびにマグロ本来の濃厚な旨味が溢れ出し、冷めても一切損なわれないそのクオリティの高さに思わず「う〜ん、美味いな」と呟いてしまいました。
続いて、オレンジ色に輝くいくらの醤油漬け。
プチプチと弾ける薄皮の中から、とろりとあふれ出すのはコク深い醤油の旨味。
いくらにありがちな生臭さは微塵もなく、ただただ濃厚でクリアな余韻が舌の上に優しく残るんです。
この一粒一粒が持つ圧倒的な存在感。
『海の宝石』なんていうテレビの食レポ的な使い古された比喩は使いたくないですけど、実際、この一粒一粒の光沢と塩気は、安易な言葉を拒むほどの説得力があるんですよね。
そしてこれらを下から支える酢飯の、なんとも計算され尽くした名脇役ぶり。
程よい酸味がまぐろといくらの濃厚な脂を見事に受け流し、極上のマリアージュを完成させています。
やはり1,600円という大台を超えるお弁当は、一口ごとの説得力がひと味も二味も違います。
そして隠れ主役、味付わさびに行ってみましょう。
マグロのぶつ切りにこの茎わさびを少し乗せ、酢飯と一緒に口へと運びます。
ねっとりとした漬けマグロの濃厚な旨味、そこに茎わさびのシャキシャキとした食感とツンと鼻を抜ける爽快な辛みが加わり、全体を驚くほど上品にまとめ上げてくれます。
この茎わさびの劇的なアシストのおかげで、私の食欲は完全に加速モードに突入しました。
箸を動かす手がどうにも止まらなくなり、両親から何か話しかけられても、口をもぐもぐさせながら「あぁ」「うん」と生返事を繰り返す始末。
完全に意識がお弁当に占有されていたわけですが、両親が「ちょっと、聞いてるの?」と本格的に呆れ顔になる前に、すんでのところで完食できたのは実にラッキーでした。
甘辛いタレで食わせる「とりめし」も最高ですけど、酢飯のさっぱり感と贅沢な海の幸の組み合わせはまさに「大人の快楽」。
1,600円という価格以上の、圧倒的な納得感と幸福感に包まれたひとときでした。
いや〜美味しかった、ご馳走さまでした。
終わりに
毎回どう転ぶか分からない実家でのお弁当の割り振りと、実家のテーブルで交わされる他愛のない会話。
かつては母に本命を譲った私が、今回は消去法で最高のご馳走にありつく。
そんな実家ならではの「巡り合わせの妙」を噛み締めた日でした。
【おまけのワンポイント】
・今回主役となった「まぐろいくら弁当」のパッケージには、日本の国旗と「駅弁」マークが誇らしげに輝いていました。日本が誇るこの繊細な食文化は、冷めても美味しく、どこまでも計算され尽くした「合理的快楽」の結晶と言えるでしょう。



