【この記事のポイント】
・愛用のウォーターマン万年筆が落下、ネジ山部分でポッキリと折損する大惨事。
・機械的ストレスのかかる可動部に対し、瞬間接着剤ではなく「2液混合型エポキシ接着剤」を選択。
・接着剤の強靭な硬化にカートリッジが巻き込まれる緊急事態から、冷や汗混じりの格闘の末に生還。
古い万年筆を復活させたというのは、以前書いた通り。
なかでも最もよく使っていたのがウォーターマン、会社で使っている手帳とペアにしてほぼ毎日使っていたんです。
突然訪れた相棒の死と、ダメ元で挑む「DIY修理」の決意
ある日のこと。
会議室への移動中、手元が狂ってうっかり廊下に落としてしまったんです。
その場は特に異常は見えず、デスクに戻っていざ使おうと手に取った瞬間…
あれ? ペンの後部というか、胴軸がポロっと外れてしまったぞ。
ネジが緩んだだけだろうと、お気楽にねじ込もうとしたんですけど…
むむっ、いつまで回してもカチッと噛み合わない。
不審に思って首軸と胴軸の接合部をのぞき込んでみると…
うわっ、見事に樹脂製の胴軸がポッキリと折れているじゃないですか!
接写してみるとこの通り。
見事に折れているのがおわかりいただけるかなと。
廊下は絨毯敷き、落とした時にそこまで大きな衝撃があったとは思えないんですよね。
製造から経過年数が長いので、樹脂の経年劣化(ストレスクラックというやつですかね)があったのかな。
それにしても、日常の相棒がこれほどあっけなく逝ってしまうとは…
さて、ここからのリカバリープランをどうするか。
胴軸となると、メーカーやお店に修理を依頼すれば確実に胴軸全体のパーツ交換。
費用も時間もそれなりにかかることは目に見えています。
どうせ高額な部品交換代を払う羽目になるのなら、その前にダメ元で、自分で接着修理を試みてみようかな。
まずは準備段階。
折れた破断面は凹凸が複雑なので、ゆっくりと回転させながら、パズルのピースを合わせるように「最もしっくりと噛み合うポイント」を探します。
ピタッと合わさる極小のスイートスポットが見つかったら、接着時に位置がズレてしまわないよう養生テープでマーク。
こういう細かい下準備って重要ですよね。
瞬間接着剤を退ける論理:なぜ「2液型エポキシ」なのか?
ここで登場するのが、二液混合型のエポキシ接着剤。
接着といえばアロンアルファのような瞬間接着剤を連想しがちですが、Geminiに相談したところ、「万年筆の樹脂補修には絶対エポキシ」という確固たるリコメンドがあったんです。
その理由は極めて合理的なんです。
まず第1に、万年筆の胴軸ネジ部には、開閉のたびに強い「ねじり(せん断力)」と「曲げ」の負荷がかかります。
瞬間接着剤は引っ張りには強いものの、衝撃やねじりには極めて脆く、すぐにパリッと剥がれてしまう。
一方でエポキシは、硬化すると強靭な3次元の分子結合体を形成、ねじれに圧倒的に強いんです。
そして第2に「肉盛り性」の有無。
瞬間接着剤は乾燥時に溶剤が揮発して体積が大きく収縮してしまいますけど、エポキシは純粋な化学反応で重合するため収縮がほぼゼロ。
欠損した樹脂の隙間を埋めながら一体化してくれるため、胴軸の精密な面接合には理想的なんだそうです。
まさに今回の壊れた万年筆には、これしかないという選択肢ですね。
用意したのは、主剤と硬化剤が均等に出てくる自動ミキシングノズル付きのタイプ。
万年筆の胴軸のような極細の破断面に直接ノズルから塗布するのはちょっと無理。
そこで、一旦紙の上に2液をブチュッと押し出して、爪楊枝でしっかりとかき混ぜて混合液を作ります。
この即席接着剤、折れたネジ部の断裂面にグリグリとまんべんなく擦り付けてと。
そして先ほど養生テープでつけた目印を頼りに、狂いなくグイッと胴軸へと押し込みます。
エポキシは初期段階ではまったく粘り気なし。
ここで手を離せば元の木阿弥、初期硬化が始まるまでの3分間、指先に全神経を集中させてホールド、ここはじっと我慢です。
接着剤は忖度しない:カートリッジ固着という冷や汗まみれの救出劇
3分が経過し、接着剤がゼリー状に固まり始めた様子。
しかし、エポキシが実用的な最高強度を発揮するには、ここから24時間の完全硬化を待つ必要があるんですよね。
さすがに丸一日手で握りしめているわけにはいかず。
養生テープを何重にも巻きつけ、強固なギプスのようにホールドして、デスクに静置します。
よし、これでひと安心。
そう胸をなでおろした瞬間、脳裏にある恐ろしい事実がよぎります。
「そういえばインクカートリッジ入れたまま作業してたけど、大丈夫かな?」
そう、作業のやりやすさから、インクカートリッジを装填したまま胴軸を押し込んでいたんです。
まさかとは思いつつ、はみ出た接着剤がカートリッジにまで回り込んでいないか…
背中に嫌な汗が流れます。
そわそわしながら、そろそろと胴軸を回して開けてみると…
… 動かない。
カートリッジが全く抜けない。
「うわっ、これはマズいぞ!」
エポキシ接着剤の抜群の「肉盛り性」が、最悪の形で牙をむいたというわけです。
胴軸の内壁とカートリッジの隙間にエポキシが完璧に充填され、強力に結合し始めている。
このまま硬化してしまえば、一生インク交換ができない「単なる黒い棒」になってしまうぞ…
まだ完全硬化前(30分以内)の今しかチャンスはない。
ピンセットとハサミを総動員して、奥で固まりかけたカートリッジをグリグリとこじり始めます。
しかし、ここで力任せに引っ張れば、せっかく数分前にピタッと位置決めして接着したばかりの胴軸が再びバキッと崩壊するのは確実。
「接着面を破壊しない、限界ギリギリの引き剥がし力」という、精密機械のような力加減が要求されるというわけです。
こんな極限の修理作業は人生でやったことがないな。
冷や汗を流しながら、手探りでミリ単位の引き抜き格闘が続きます。
24時間後の覚醒:タフさを取り戻した相棒との再会
…ポン!
格闘すること数分、見事にカートリッジの救出に成功!
もしこれが永久固定されてしまっていたら、せっかく復活させたウォーターマンが本当にゴミ箱行きになるところでした。
カートリッジの先端は完全にボロボロになってしまいましたけど、インクはもうほとんど使い切っていたので、金銭的な痛手はほぼゼロでした。
インクの脅威を取り除いた後、再び位置をピタッと合わせて、丸一日(24時間)の放置タイムへ。
翌日、おそるおそる養生テープを剥がし、キャップを開閉してみたところ、おぉ!
噛み合わせはピッタリ、強度は完璧。
試し書きで指先に力を込めてみても、ビクともしないタフな仕上がりになっています。
「経年劣化が極めて少ない」、そんなエポキシ接着剤のポテンシャルを信じてと。
この復活した相棒をふたたび主役に据え、じっくり使い続けてみることにしていきます。
【おまけのワンポイント】接着剤の「仕事熱心さ」を侮るなかれ
・DIYの鉄則:「接着剤は、あなたが思っている以上に仕事熱心である」。
エポキシの卓越した「肉盛り性」は、主人の意図を忖度せず。彼らは胴軸の割れ目だけでなく、隣接するインクカートリッジまで喜んで「一生モノの家族」として迎え入れようとします。もしあなたが「二度とインク交換ができないワンタイム使い切り高級万年筆」を爆誕させたくないのであれば、作業開始前にカートリッジは絶対、物理的に避難させておくことを強くお勧めします。






