・三重塔の先は異界の入り口。歌川広重も描いた「凍てつく絶景」、瓶子の滝の氷柱と、武田信玄ゆかりの巨木に迎えられて。更には岩を穿ち、岩に寄り添う本殿の「極彩色」と巨岩のコントラストに圧倒される。
昨日の続き、榛名神社のさらなる深部へと歩みを進めます。
三重塔を過ぎたあたりから、なんだか空気の密度が変わったような。
物理的防御と職人の祈り:異空間へのゲートを抜けて
石造りの鳥居をくぐると、その先はもはや別世界。
まるで現実世界から神域へゲートを通過したような、不思議な高揚感に包まれます。
突如として現れる頑丈な鉄骨の屋根。
これは、峻険な岩山が迫る榛名神社ならではの「落石防護施設」です。
古の祈りの場に突如現れる現代の建造物。
この無骨なシェルターがあるからこそ、我々は安心して聖域の深部へとアクセスできるというわけです。
鉄骨屋根の途中には、「ハケ・ブラシ・筆 感謝焼納所」。
使い古した道具に感謝を捧げ、供養するための場所のようです。
わざわざここまで道具を持ってくるのは、それだけ仕事の道具を「戦友」として大切にしている職人の方々でしょうね。
広重が描いた凍結の美:氷と杉のアーカイブ
神橋に差し掛かると、横に流れる「行者渓」が完全結氷。
この氷の造形には、息子と共に思わず絶句です。
実はここ、浮世絵師・歌川広重の『六十余州名所図会』にて「上野国 榛名山 雪中」として描かれた場所。
時を超え、広重と同じ目線で冬の幽玄を眺めている事実に、歴史のロマンを感じます。
その先には、さらなる氷の芸術が待っていました。
神に捧げる神酒の器「瓶子(みすず)」を思わせる岩の間から流れ落ちる滝が、巨大な氷柱と化しています。
境内の湧水を源泉とするこの滝、時が止まったような圧倒的な静寂。
あまりの美しさに、カメラのシャッターを切るのも忘れそうになるほどの感動です。
見上げれば、天を突くような巨木「矢立杉」。
かつて武田信玄が箕輪城攻略の際、ここに矢を立てて戦勝を祈願したという伝説の杉です。
箕輪城攻めは1557〜1566年、460年も前のこと。
それから数百年を刻み続けた幹には、激動の戦国時代を生き抜いた強靭な生命力が宿っているようでした。
極彩色の本殿:岩と建築のインテグレーション
そしていよいよクライマックス。
重厚な「双龍門」の背後には、天を圧するような巨大な岩が聳え立っています。
重力に抗うように屹立する岩の迫力に、ただただ圧倒されるばかり。
人間の造形物が、自然の圧倒的なスケールの中に組み込まれている様は、まさに建築の極致。
そして辿り着いた本社・幣殿・拝殿。
復元工事が行われたばかりの社殿は、驚くほどきらびやかで鮮やか。
漆黒に浮かび上がる極彩色の彫刻群が、冬のモノトーンな岩肌との見事なコントラストを描いています。
古びた良さも捨てがたいものの、建築当時の参拝者が目にしたであろう「完成直後の輝き」を今この瞬間に共有できるというのは、何とも有り難い体験ですね。
社殿の背後には、ご神体とされる「御姿岩」が鎮座。
本殿の屋根が岩の中に吸い込まれるように一体化しているその構造は、一見の価値あり。
自然そのものを神として敬う、日本古来の信仰の形がこれほどダイレクトに視覚化されている場所も珍しいでしょう。
たった15分で、これほどまでに濃密な歴史と自然に触れられるとは。
昔の人がこの地を「聖地」として設定した理由に触れた気がします。
身も心も清められたところで、そろそろ山を降りてと。
駐車場に向かうことにしましょう。
【おまけのワンポイント】
・榛名神社の主祭神は、火の神「火産霊神(ほむすびのかみ)」と、土の神「埴山姫神(はにやまひめのかみ)」。古来、農耕や鎮火の神として信仰されています。現代の我々にとっても、社会インフラの安定稼働を祈るにはぴったりの場所かもしれませんね。