【この記事のポイント】
・娘不在という好機を捉え、ストックしていた「覇者の麺」を夫婦で。
・5センチ幅の麺がもたらす重量級の旨味と、担々つゆの跳ね返りを制御する高度なリスク管理の愉しみ。
とある休日のランチ、この日は娘が不在。
よし、こりゃチャンス。
昨年からストックしてあった「あれ」を食べることにしましょう。
「あれ」というのは、昨年の結城墓参りの帰路、道の駅で手に入れておいた「鬼ひも川」。
群馬県館林市の老舗『花山うどん』が誇る、幅約5cmという規格外の極幅広麺です。
大正時代に生まれ、五代目が復刻させたというこの麺は、まさに伝統と革新のハイブリッド。
以前、銀座の店舗でこれを食べた娘。
「美味しいよ」とクールに評していましたけど、その言葉の裏には「いつまでもストックしておくんだったら、私が食べちゃうよ」という警告が内包されていたんでしょう。
彼女が暴挙に出る前に、私と妻のランチで食べてしまおうというわけです。
パッケージを開封すると、そこにはまるで木簡のように端然と並ぶ乾麺。
この時点ではまだ、その「鬼」のような迫力は影を潜めています。
茹で上げる過程でこの平べったい物体がどう変貌を遂げるのか。
物理的な変化を観察するのも、また一興でしょう。
進化する麺、最適化される旨味
茹で時間は約10分。うどんとしては比較的長い方。
大きな鍋の中で、白いリボンが舞うように広がっていく様子はなかなかの壮観です。
湯を吸い、厚みと幅を増していく麺、くっつかないように引き剥がしながら茹でていきます。
この「鬼ひも川」の特徴は、圧倒的な「表面積」。
平打ちにすることで、つゆとの接触面積を最大化、一口ごとに運ばれる旨味の量を最適化する造り。
これがあのひも川うどんなんだと、一人鍋の前で頷いてしまいます。
今回は、濃厚な担々つゆがセットに。
具材はシンプルに刻みネギのみにしておきました。
余計な要素を排除し、麺とつゆの純粋なコラボをダイレクトに味わうためのミニマルな構成です。
さて、それでは頂きましょう。
箸で持ち上げると、ずっしりと伝わる未体験の重量感。
5センチ幅の白いシルクのような麺を、濃厚な担々つゆに潜らせます。
一口啜れば、麺の強靭なコシと、絡みつくピリ辛な胡麻のコクが口内を支配。
これは細麺では決して到達できない味わい、咀嚼するたびに小麦の香りが弾け、つゆの旨味が多層的に押し寄せてきます。
これほど幅広く重い麺、滑りやすい箸で制御するのは至難の業ですね。
油断すれば、跳ね返った赤い担々つゆが洋服に「赤い水玉模様」という悲劇をもたらす。
慎重にかつ大胆に、重力と表面張力を計算しながら口へと運ぶスリル。
美味しいものを食べるのが、実は高度なリスク管理を伴うエンターテインメントでもあるというのは愉快なものです。
1本でうどん数本分にも相当するボリュームのひもかわうどん、一人5本も食べればお腹も満たされるもの。
いやぁ美味しかった、ご馳走さまでした。
【おまけのワンポイント】
・ひもかわうどんは、織物で栄えた桐生地方で、多忙な織り手たちが素早く食べられるよう薄く広くなったのがルーツだとか。
・麺の幅が広ければ広いほど、つゆの絡みの効率が上がるという、先人の知恵の結晶です。
・「花山うどん」の鬼ひも川は、うどん天下一決定戦で三連覇を成し遂げた、まさに「覇者の麺」なんだそうです。