【この記事のポイント】
・「一見空いているのに座れない」大祭りの自由席に展開された、シートによる高度な心理的バリケード
・縦に細い騎馬より横に広がる一隊が圧倒的に目立つ、戦国デザインがハックした認知心理学の視覚効果
・ヤクの毛で作られた兜「白熊(ハグマ)」と、朝起きてきた娘の寝癖を重ね合わせて撃沈した父親の自虐
さて、雲雀ヶ原祭場地に到着。
いや〜広いですねぇ。
ぐるりと山に囲まれた巨大なすり鉢状の芝生が、地平線の彼方までどこまでも続いているような圧倒的なスケール感。
この広大な緑のなかに、これから数万人の熱気と数百頭の荒駒が解き放たれると思うと胸が高鳴ります。
自由席エリアはと… お、意外に空いているじゃないですか。
なんて思ったのは大いなる誤解。
一見すると芝生のあちこちがポッカリ空いているように見えるんですけど、そこには色彩豊かなビニールシートが絶妙な間隔で「地雷」のように敷き詰められているんです。
「ここは私の領土である」と無言で主張するブルーやグリーンのシート群。
その隙間には、大人二人が並んで腰を下ろせるスペースはどこにも残されていないもの。
見事なまでの心理的バリケード、無理に入れば先住民族との一触即発の戦闘モードに突入するのは確実。
う〜ん、ここに入るのは迷惑だろうし… なんて移動しながら場所探しに。
ようやく落ち着いたのは、会場の最も奥、しかも斜面の階段をかなり登ったところでした。
足腰が丈夫じゃなきゃ到底たどり着けないフロンティア。
普段から1万歩ウォーキングを日課にしている日頃の成果がこんなところで発揮されたなと。
会場から遠いものの、これもまぁ全体が見渡せるポジションということで納得しておきましょう。
10:10過ぎ、ようやくお行列の先頭が雲雀ヶ原祭場地に姿を現します。
お〜、騎馬武者ってやっぱりデカいな〜
…なんて感じるほど近いわけでもなく。
豆粒ほどとは言わないまでも、はるか遠くの人だかりと比べると「あ、少し縦に大きいかな」という程度。
背中に掲げた旗指物で、それと識別はできるんですけどね。
私がいるのはメインゲートから最も離れた高台の観覧席。
なので仕方ないものの、このアングルからだと遠すぎて臨場感は今ひとつ伝わってこないというのが正直なところです。
縦に細い騎馬単体よりも、おそろいの派手な陣羽織を着た人たちが横一列に連なる隊列のほうが、はるか遠くからでもやけに目立つ。
これは認知心理学やデザインでは、「面積効果(網膜像のサイズ効果)」といわれるものです。
細い縦線(騎馬武者一騎)は、背景の視覚ノイズに簡単に溶け込んでしまう。
一方で横に広がる巨大な面は、脳の視覚野がバラバラの点ではなく「一つの大きなグループ」として優先的に認識するんだそうです。
そういえば、武田信玄や真田幸村が率いた最強の騎馬軍団「赤備え」も、まさにこの面積効果の究極系。
戦場で人馬の武具をビビッドな赤で統一し、巨大な「面」としての圧倒的な質量と威圧感をもって、遠くの敵の視覚と恐怖心を煽っていたんです。
まさか四百年前の戦国デザインが、認知心理学を戦術レベルで高度に活用していたとはと、遠くの隊列を見つめながら深く感心です。
こりゃ地面に近い方が騎馬武者のリアルな迫力がわかるなと移動。
距離はまだまだ遠いんですけど、カメラのズームレンズを望遠端(最大ズーム)にセットしてファインダーを覗いてみます。
う〜ん、これはなかなかの迫力。
当然ですが馬も生き物、すべてが調教された通りにおとなしく歩いてくれるわけではないらしい。
この白馬は観衆の熱気に興奮したのか、突然いなないて騎手を豪快に振り落として大暴れです。
落馬した武者の方は相当痛そうなんですけど、なにせ大勢が見守る晴れ舞台。
サムライのプライドが邪魔をして痛々しい顔を一切見せない(表に出せない)、そんな痩せ我慢の美学も観ることができたなと。
お〜、ブロンドのボサボサ頭。
これは「白熊(ハグマ)」と呼ばれる兜の飾り(被り物)ですね。
名前通りのホッキョクグマの毛ではなく、実はヒマラヤの高地に住むウシ科の動物「ヤク」の尾の毛なんだそうで、武田信玄が被っていた諏訪法性の兜でおなじみ。
あ、そう言えば戊辰戦争のときに官軍(新政府軍)の指揮官たちも、このハグマを被っていましたね。
かつて朝起きてきたばかりの娘の凄まじい寝癖頭を見て、「お前の寝癖、完全に官軍のハグマ頭だな」と。
新政府軍指揮官の写真をスマホで見せたら、極低温の冷気で睨みつけられた記憶が蘇ります。
(その顔がまた、殺気みなぎる指揮官によく似ていた… あっ)
間近で見た騎馬武者。
馬ってもっと見上げるほど巨大な印象でしたけど、意外にそうでもないんですね。
大人しい時と荒れている時の差、これは我が家のハグマ頭の新政府軍指揮官にそっくり…
あ、いや、これ以上はやめておきましょう。
そんなこんなで、いよいよ野馬追の中日のメインイベントが幕を開けるというところで、続きはまた明日。
【おまけのワンポイント】
戊辰戦争で官軍(新政府軍)の指揮官たちが被っていたあのフサフサしたハグマ(白熊)の毛は、実は江戸城を接収した際に、幕府の倉庫から大量に発見された備蓄品だったんだそうです。
もともとヒマラヤ原産で超高価だったヤクの毛は、武士の間で権威の象徴とされており、徳川幕府が有事の装飾品として大事にコレクションしていました。
皮肉にも、幕府を倒す側だった新政府軍の指揮官たちがそれを見つけて「これ、かっこいいじゃん!」と戦利品代わりに頭に載せたことで、一気に官軍のトレードマークとして定着することに。徳川自慢の最高級のお宝が、そっくりそのまま自分たちを滅ぼすシンボルマークになってしまったというこの歴史の皮肉、なかなか味わい深いですよね。



































